広報委員のひとりごと
大停電の日…
日本貿易振興会(JETRO)中村和生
8月14日午後4時過ぎ、「バスン!」という音がオフィスに響き渡った。北アメリカ北東部の広大な地域に及んだくだんの大停電である。電話もパソコンも使えない。さすがの携帯電話も通じない。外を見ると信号は消え、徐々に車が渋滞しはじめていた。
地下鉄復旧まで相当時間が必要とみて、僕と同僚はトロント市の南のダウンタウンから北方のノースヨークの自宅まで歩くことにした。推定15〜20キロ。マラソンでは何度も走ったことのある距離だが、スーツとビジネスシューズ姿では未だ経験したことがない。
外に出ると、通りは歩いて帰宅する人で溢れていた。ホットドックを売る露店にはエネルギーを補給しようと長い列もできていた。道端には、猛暑の中長い道のりを歩く人たちのためにボランティアで水を配る人や、信号が消えた交差点で交通整理をする人がいた。自分のためではなく困っている人を助けようとするトロントニアンの温かさを感じながら、僕らは自宅を目指してひたすら歩いた。
ようやく自宅に着いたのは、歩き始めてから3時間半後である。街灯もない町はすでに真っ暗になっていた。
テレビの音も冷蔵庫の音もせず、静けさに包まれた自宅では、ろうそくの明かりが、長時間ビジネスマン姿で歩いた疲れを癒してくれた。ラジオをつけると「星空を見ましょう」とアナウンサーが語りかけている。普段は気にすることもないトロントの夜空を見上げると、満天の星空が真っ暗な町の上に広がっていた。
|