インタビュー・シリーズ この人に聞きたい


空想と現実の愉快なハーモニーの奏者
飛鳥童さん


製作中のスタジオで


ART WORDS 広瀬直子


トロント在住の絵本作家・アーティスト、飛鳥童さんは、これまでに複数の国から賞を受賞し、作品が多数の言語に翻訳・出版されるなど、国際的に活躍するアーティストです。今回は「とりりあむ」のために、カナダについて、そして現在の活動について、ダウンタウンのスタジオでお話いただきました。

◇◇◇

空の面積

「1979年に、1、2年滞在するつもりで、紹介されたギャラリーを訪ねるべくカナダに来たんです。最初は呆然としてしまいました。地平線に水平線でしょ。オンタリオ湖ひとつとっても、対岸が見えないから描くものがなくって。その前はヨーロッパで3年間の放浪生活をしていたのですが、空の面積がカナダに来てずいぶんと大きくなってしまって」。と、カナダとの出会いを振り返る飛鳥さん。

しかし、「まるで線を一本ピーと引いただけのような」何もなさが、その後の作品を方向付けることになる。「オンタリオ湖の向こうに、ニューヨーク州があって、そしてもっともっと向こうまで行くと南米になって、それがクルっと回ってここに戻ってくるのかな、というように、見えないところに心が行くようになったんです」

1987年の作品、「めばえ」は一見、家族や子どもが笑顔で過ごす日常の公園風景。しかし、目を凝らすと想像界の楽園だ。樹木の太い幹はシカの顔に、枝々はその角になり、ゆったりと枝垂れる柳の間を天使たちが飛び交う。背後の草の茂みによく目を凝らすと、象さんの顔も見えるし、ライオンの顔も浮かんでくる―。カナダにインスピレーションを受けて、空想が現実の自然界にさらっと融合する飛鳥童のアートが生まれた例だ。

「1、2年滞在するつもり」が、カナダに住んで四半世紀近くになる。世界各地の文化を大切にする精神に共鳴したほか、趣味やボランティアを楽しみ、前向きに生きる日本人一世の人たちのライフスタイルを見て、ここで生活していける、と思った。






絵本の原点に戻る

「今、僕は絵本の原点に戻りつつあるんです。これまでの作品は、絵本といっても大人も楽しめるものが多かったんですが、数、アルファベット、色などをテーマにした、幼児向けの本に取り組み始めました」

そのきかっけのひとつとなったのが、中国、上海で行ったワークショップ。
「2年前、上海教育局で幼児教育関係者を相手にお話したあとに幼稚園や小学校をたずねてワークショップをしたんです。そのときに、子どもが虹の滑り台を滑ったり、大きな虹をロープにして縄跳びをしている僕の作品を見せて、こんな遊びしたい?って聞いたら、反応がなかったんですよ!子どもなら普通、はいはいは〜い!って手を挙げますよね。ショックでした」

後で通訳の人にその理由を聞いてみると、子どもたちは生まれてこのかた虹を見たことがないんですから無理ないですよ、と言われた。その理由は大気汚染。

「幼児用絵本をつくって、絵を通して子どもに自然界に接して欲しいと思いました。最近の子どもは家の中にコンピューターやテレビなど何でもあって外で遊ばなくなりましたけれど、身近なところに素敵なことはいっぱいあります。それを知ってほしい」

(作品集からひとつを指差して)「この絵は流れ星をたくさん描いていますが、僕はケニアで本当にこんな空を見たんですよ。トロントの上空でもこの間の大停電で流れ星が見えたでしょう。電気さえ消せば、流れ星は飛んでいるんですよね。僕の作品は実際に見たものなんです。本当は身近なものなんです」

本当はそこにあるのに、私たちが忘れている大切なものへの入り口、それが飛鳥さんの作品なのかもしれない。




めばえ 1987


飛鳥童(あすか・わらべ)
1944年、香川県生まれ。1979年カナダに移住。ご夫人と3人の子供の家族。トロント出版文化賞、テヘラン・ビエンナーレ・グランプリを受賞するなど、国際的に活躍するアーティスト。高円宮妃久子さまが文を、飛鳥さんが絵を担当した『氷山ルリの大航海』は、世界15か国で出版されている。今取り組んでいる数の絵本(日本語名「てんてん・なんてん・なんのてん?」、英題「Dots do lots」)は「点」をテーマに子どもに数えることを教えながらも、想像力を引き出す絵本。



≪著者プロフィール≫
広瀬直子
フリーランスの編集者・ライター・翻訳者。過去約6年間『とりりあむ』の編集を担当させていただいております。

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