リレー随筆


KEVIN WHO?


カナダUFJ 銀行 影山克明
カナダUFJ銀行 影山社長


「売った―!―!」「買ったー!−!」

興奮してくると「 ったー!」になり為替ブローカーがあわてて「どっちですかー!!」と叫び、その返事がまた「 ったー!」。その点海外では「Yours!」「Mine!」と明々白々。そんな為替ディーリングの世界に足を踏み入れることになるとは夢にも思っていませんでした。

いつの日か出身地である浜松の支店長になれたらいいな、との夢を胸に毎日自転車の籠に大きな集金鞄を乗せて銀座の真ん中を走り回ることが結構楽しいと感じていた頃です。突然上司からニューヨーク支店への転勤辞令をもらい「おめでとう」「頑張ってこいよ」という声を背にニューヨーク支店に赴任。

日本はまだ規制金利の時代、ニューヨークでは預金金利が毎日変わるということが驚きでした。自分ではビールを注文したのに発音が「Beer」より「Bill」に近かったためか請求書が来て悲しくなり、職場では現地社員とは朝晩の挨拶以外は持ち味の笑顔でごまかすだけ。どうして自分はこんなところで働かなくてはいけないのか、と上司を恨む毎日。

1カ月間の研修と言われて入ったディーリングルームにそのまま籍を置くことになり、髪が真っ白になるほどの緊張状態でした。時あたかもプラザ合意直後で為替相場が大きく変動する中、もともと気の弱い私はポジションなど持って万一会社に損失を与えることになったら、と思うとただスクリーンを眺めていることしかできません。身上書に平気で「明るい性格」と書ける私ですが、この時ばかりは自分の回り数メートル四方を暗いムードにつつんでいました。

そんな時、上司といっしょに為替の世界では有名だったCITIのチーフディーラーと食事をする機会がありました。世界中に特別な情報網を持つ通貨マフィアであり、まさにコンコルドも落とすほどの勢い、どんな人物か楽しみでした。残念ながら第一印象はどこにでもいる根暗なおじさん。どうしてこんなおじさんが世界の市場で恐れられる実力者なのか不思議でした。

彼の言っていることの半分は理解できませんでしたが、要するにこの世界で成功したいなら「約束を守ることだ」と強く感じました。噂や思惑だけでも巨額の資金が瞬時に動く世界では情報だけが頼り。情報の信頼性は発信源であるその人が信用できるかどうか、そして信頼の基本はどんな時でも約束を守る人かどうか、ということだと理解しました。

ただ約束といってもそれはディーラー仲間との約束であって銀行員の常識とは違っていました。どんなにアゲンストな状態であっても仲間に対しては歯を食いしばってもベストプライスを出すことや、会社の上司との約束事は無視してでも仲間との遊びを優先することでした。

以来、ディーラーとしての生活は一変。名前(通称)もKEVINに改名し本社からの出張者に現地社員と間違われるようになり、ディーラーの常識も都合がいいように進化させて北米生活を満喫。ただディーラーとしては何の成果も残すことなく8年間の海外赴任を終え、東京に帰りました。有名男優と同じで気に入っていた名前も、上司からは「KEVIN? 君は土瓶か尿瓶いや警備員だな」と一喝されあっという間に「普通の銀行員」に戻ってしまいました。

次号は、東芝カナダの栗原社長にご登場お願いしております。


 

≪著者プロフィール≫
影山克明
静岡県浜松市出身 1979年、当時の三和銀行入行と同時に結婚。大阪の瓦町支店振出しに、日比谷支店勤務後、ニューヨーク支店でディーラーとなりそのままトロントに赴任。8年間の北米勤務後は東京都内の支店勤務ばかりで海外はないと思っていた矢先の昨年3月、2度目 のトロント赴任となる。今年は勤続25年、結婚25年の節目。 2男1女、趣味は囲碁、ボーイスカウト(野外活動全般)、寅さん。

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