
リレー随筆
チャリティースキー大会
東芝カナダ 栗原光宏

"Mr.Kurihara, relax!"―。カナダを代表する往年の名スキヤーKen Read のやさしい声を掻き消すように、競技進行役の声が響く"No.1! Are you ready! Three, Two, One Go!" あっという間に最初のポールが目の前に迫る。エッジを鋭角に切り替えて何とか1本目のポールをなめて回ると後は無我夢中でゴールを目指す。ほんの30秒程のタイムトライアル、でも緊張でのどはカラカラ。
ここまで読まれた方は、私がスキーの回転競技の選手かと勘違いされるかもしれませんね。しかし私自身まさかカナダに赴任して、毎年1回しかもゼッケン1番をつけてポールを掻い潜りながら斜面をころがり落ちてくることが仕事になろうとは思ってもみませんでした。
Cystic Fibrosis という病気をご存知の方はどのくらいいらっしゃいますか?私もカナダに来るまでは全く聞き覚えのない病名でした。日本語では「嚢胞性繊維症」というのだそうですが、よけい混乱するだけなのでここではCFと言っておきます。
実は冒頭のスキー大会も「Toshiba Breath of Life」というこの病気の患者のためのチャリティースキー大会の一場面を描写したものです。CFという病気は白人に多い遺伝子病で、カナダでは子供のうち2500人に一人の割合でこの病気を持って生まれてくるそうです。そうした子供はいつか呼吸困難に落ちいり1985年の統計では、平均寿命が18歳ということでした。ちょうその頃、前出のKen Readが音頭をとって始めたのがこのBreath of Lifeというイベントです。今ではチャリティーの甲斐もあって平均寿命は35歳以上まで延びてきましたが、この病に犯された人々やその家族は常に発病の恐怖と隣り合わせの生活を強いられています。
イベント最終日のディナーでは、この病気に蝕まれている若者のスピーチについほろりとさせられてしまいます。数百人にものぼる参加者は普段競技スキーなど全く縁遠い人から、オリンピック/ワールドカップのゴールドメダリストまでスキーの技量は千差万別でも、弱い者への労わりや優しさは皆同じといったところです。
カナダに来てまず感じたことは、社会が弱い者に対して優しいということです。それはあくまで価値観が共有できる共同体の範囲においてかもしれませんが、そうしたシステムが社会のいたる所に組み込まれていて、皆それを苦にもせず楽しみながら人助けをやっている。そうしたボランティアの人々にはいつも感心させられます。せめてカナダに駐在している間だけでも、そうした行事に積極的に関わってみたいと思う今日この頃です。
次号は、エプソンカナダの村田様にご登場をお願いしております。
≪著者プロフィール≫
栗原光宏
埼玉県生まれ。東芝入社以来、海外業務畑を歩み、87年から欧州(ドイツ、ベルギー)に駐在。以前はカナダとはほとんど縁がなく、2年半前、寒さに怯えながら赴任してきたが、今は家族ともどもカナダの自然を満喫している。
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