リレー随筆

ccと留守番電話と尊重される個人


エプソン 村田すなお

エプソン 村田様

私が日本で勤務していた時、私が一日に受け取るe-mailの数は約100件程度、その半数以上がccとして受け取ったものでした。これに対してトロントでのe-mail事情は一日50件程度、ccとしての受信はそのうち2割くらいです。つまり日本人はccが好きなんです。じゃなぜ、人はccするのでしょうか? それは「ccしたんだから、後になって"聞いてないよぅ"とは言わせないぞ」という意味を込めたものが大半です。そこには日本的な根回しの文化も、隣り組的な連帯責任を重んじる文化も見え隠れします。一方、欧米の基本はあくまでも個人対象で、用件の相手を「TO:」―宛先のセクションに据えたら、ccは少なめが主流です。

これと似た現象がオフィスの留守番電話に見て取れます。日本のオフィスで自分のデスクに留守番電話を使っていた方は少数派だと思いますが、北米では留守番電話がデフォルトですね。これはその人個人が不在なら周りの人と話しても仕方ないという暗黙の了解があるからでしょう。

日本ではファーストネームで人を呼ぶケース(特に会社関係では)は非常に珍しいですが、北米ではそれが大多数です。これは日本文化が個人より集団(この場合、家族とか家系とかという意味での集団)を重視することに関係しているからで、それに対して欧米では個人がほぼ全てなのでその本人を特定できるファーストネームが使われるんじゃないでしょうか。

娘の通う現地校ではカリキュラムの中でプロジェクトがしばしば行われるのですが、各生徒が取り上げる具体的なテーマはそれぞれ異なります。例えば全体テーマがカナダの産業なら私の娘は林業を、隣りの生徒は漁業をリサーチしたりします。日本の教育システムでは見かけない方法ですが、これも個人毎の違いを容認する考え方が背景にありそうです。

新卒の採用もそうです。日本では4月1日に大量の新卒者が社会人生活を始めますが、こちらではある人は4月に卒業し、別の人は8月に卒業するわけですし、卒業直後に勤務を開始しない人の割合もかなり多いので日本のような状況にはなりえません。また日本では大卒の場合、4月1日に22歳であることがある種のステータスであったりしますが、こちらにはそういう状況は微塵もありません。それぞれの人が会社生活を始めるまでの間に何をしたかを認め合える土壌、つまり個人毎の違いを尊重する考え方が背景にあるからでしょう。

まとまりの無い話になりましたが、私が肌で感じた一番の海外らしさは個人毎の違いを認め合い、個人を尊重する文化です。赴任当初は戸惑いもありましたが、4年経った今、ふと気付くとその文化を心地よく感じている自分に気付きます。果たして自分が尊重してもらえるだけの個人であるかという点については常に疑問が残るわけですが…。

苦手な作文もとりあえず終えたし、そろそろこの原稿をメールしようかな。ところで次号の執筆をお願いしてあるカナダ住友商事の山本様にもccしておいた方がいいかなぁ…。

次号は、カナダ住友商事の山本様にご登場をお願いしております。

 

≪著者プロフィール≫
村田すなお
大阪生まれ、札幌育ち。大学卒業後、在京の会社に5年間勤務した後、エプソンに入社。それ以来、ソフトウェア開発に従事。2000年より初の海外勤務。家族共々トロントライフを満喫中。人生の4分の3を過ごした札幌が今でも心の故郷。

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