
リレー随筆
空手と私

SUZUKI CANADA INC. 原野匡史
「空手をやっていたそうですね。 ぜひ『とりりあむ』にご寄稿願えませんか?」 こう切り出されたときは、「いやぁ、もう学生時代の話ですから、ずいぶんと昔のことですので…」。 文章を書くのが苦手なもので、なんとか勘弁してもらえないのだろうかといい加減なこと言ってしまいました。
実のところ、大学入学と同時に空手道部に所属してから、卒業後少しのブランクはありましたが、つい数年前まで大学の後輩OB連中とチームを組み、先輩OBの経営する会社の名前をかたって実業団大会に毎年出場しておりました。さすがに30代後半に差し掛かるともう体がついていかなくなってしまいましたが、空手とはかれこれ20年ほどの付き合いになります。
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空手をやっていると人からもっとも頻繁に聞かれる質問が、「痛くない?」とか「怖くない?」(あと「瓦とか割れるの?」も非常に多いです)。 今回はこの"痛い"と"怖い"について少し雑談をさせていただきたいと思います。
大学卒業後は細々と自分で練習を続けておりましたが、アメリカ駐在時代に何を思ったのか、ふと一念発起して道場に通うようになり、一時はキックボクシングジムと掛け持ちでほぼ毎日練習に通うなどかなり熱が入った時期がありました。一日2箱近く吸っていたタバコを止めたのもこの頃です。
とあるカリフォルニア州のオープントーナメントに出場したときのこと。あれよあれよとうまく勝ち上がって、決勝戦へ。学生時代は"ベストXX"といったところがせいぜいだった私にとって、初めての一等賞を目の前にがぜん舞い上がってしまい(特にアメリカの試合の場合、日本と違って優勝するとすごい大きなトロフィーがもらえます)、2mほどある相手の懐に入ろうと思いっきり飛び込んだところが、相手のカウンターパンチが見事私の眉間に命中。顔面ライトコンタクト有りということで、そのあざやかなパンチは見事"一本"とみなされ、残念、賞状&メダルだけの2等賞に終わってしまいました。
さて、その夜のこと。ずきずき痛む眉間はどんどん腫れあがり夜は一睡もできずに迎えた翌朝、鏡で見た自分の顔は、眉間から鼻にかけて、普段(もともと少ないですが)凹凸のある部分が腫れあがって全く凹凸の無いアンパンマンみたいな顔になっていました。会社を休むわけにもいかず、いざ出勤。 駐在員連中には事情を話して思いっきり笑われましたが、アメリカ人連中は私と会った際、視線はあきらかにわたしの眉間を凝視しながら, "Hi
!…."といった後に誰も"What's happened ?"とは聞いてくれず、こちらからいちいち説明するのももどかしいままに一日が終わってしまいました。後で聞いたところ、その日社内は、私の顔の話で持ちきりだったそうで、「どうやら浮気がばれて、カミさんにやられたらしい」というのがもっぱらの噂だったそうです。
さて話は戻って、「痛くない?」と「怖くない?」ですが、もちろんとても"痛い"ですし、えらい"怖い"です。が、"痛い"のは試合が終わってしばらくたったその後で、試合の真っ最中は殴られようが蹴られようが、あまり痛みを覚えません。"怖い"のも試合が始まる直前までは、特に対戦相手が自分よりえらいでかくて、襟元から胸毛がもじゃもじゃ見えていたり、スキンヘッドで眉毛も剃っていて、袖口から刺青が見えていたりすると(日本ではあまり見かけませんが、アメリカではそう人達も結構見かけます)もう「帰っちゃおうかな」と思うぐらい怖いのですが、いざ試合が始まってしまうともうそんな気持ちはどこへやら、頭の中は「このヤロウ」という盛り上がった気分で一杯になります。これは別に空手に限った話ではないのでしょうが、人間の"集中力"といいますか、とくに"これ以上後ろに下がれない"状況に置かれたときの集中力というのにつくづく感心させられたのが私の場合空手を始めてからのような気がします(なぜ後ろに下がれないかというと、目の前の厳つい対戦相手より、後ろに座って見ている自分の先生の方がもっと怖いからです)。
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さて、空手はいまだにいろいろな流派に分かれており、また各流派においてそれぞれの思想が違うため、他の競技のように"ルールの統一化"というのがなかなか難しいのが実情です。それでも、それぞれの流派においての一般普及への努力と、また昨今は防具の発達も手伝って、いろいろなレベルに合った楽しみ方が無理なくできるようになってきました。 老若男女を問わず、やってみたいとご興味のある方がおられましたら、いろいろ考える前にまずは始めてみることをお勧めします。ちっとも"痛くない"し、"怖くない"空手というのは、なかなか無いかもしれませんが、"ちょっとぐらい痛く"ても、"少しぐらい怖く"ても、やっぱり空手の稽古に行きたいと思う自分に、きっと驚かされると思います。「どうして?」と尋ねられると・・・うまく説明できませんが、あえて言うなら、"他では味わえない非日常的な緊張感/充実感"とでもいいましょうか、こればっかりは「とにかくやってみてください」、としか言いようがありません(痛そうな話をしておいてなんだお前は、と怒られてしまいそうですが)。
なお、次回は東芝カナダの伊藤様にお願いします。
≪著者プロフィール≫
原野匡史
88年入社後、海外営業、アメリカ駐在、商品企画等を経て、昨年8月にトロントへ赴任。近年最もはまったのはスノーボード。だれか一緒に行ってくれる人を探しつつ、つい週末は家でゴロゴロしたまま冬が終わってしまいそうな感じです。
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