
リレー随筆

「シングルモルト」 国際観光振興機構(JNTO) 西中 隆
暑くなってくるとパティオや家のベランダで飲むビールが一際旨く感じられるのですが、一番好きな酒は?と聞かれると、ウィスキーです、と答えることになります。
そもそも、ほとんどの種類の酒に弱いのですが、なぜかウィスキーだけは例外で、寝酒が深酒になって翌朝反省、ということもよくあります。学生時代、サントリーのReserve(当時、本木雅弘を起用した、Reserve友の会、なるCMが仲間内で流行っていたのです)から始まって、その後、お約束のようにバーボンに移行しました。当時は高くてなかなか手が出せなかったWild TurkeyやJack Daniel'sはもとより、いつかは、と憧れ続けたMaker's MarkやBlanton'sですら今では安価で手に入れられることを思うと時代の流れを感じずにはいられません。
焼酎やワインに食指を伸ばしたこともあったのですが、基本的にずっとバーボン党だった私がシングルモルトを知ったのは、またしても、サントリーの広告でした。ウィスキーでも、スコッチ、と呼ばれるものは実はそんなに好きではなかったのですが、広告に釣られて買ったBOWMOREを飲んで以来、すっかりはまってしまったのです。
シングルモルトのどこがどう魅力的なのか、については、村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」という、スコットランドの綺麗な風景写真付きの珠玉のエッセイが全てを語ってくれていると思いますので、機会があれば一度手に取っていただければと思うのですが、私なりに言えば、1本1本に明確な違いがあり、自分の好みの1本を見つけていく宝探しのような楽しさ、ということになりましょうか。
シングルモルトはその産地によって、スペイサイド、キャンベルタウン、ハイランド等々に分類されますが、私の一番の好みはアイラ(ISLAY)島で仕込まれるアイラモルトです。アイラ島はスコットランドの西端に浮かぶ小さな島ですが、ここに8つの蒸留所があるそうです。初めて飲んだBOWMOREもアイラモルトの一つなのですが、アイラモルトの特徴は、よく言えば潮の香り、ストレートに言えばとにかくクサい、ことにあります。アイラモルトの中でも、蒸留所によって「クサさ」には明確な違いがあるのですが、特に、ARDBEG、LAGAVULIN、LAPHROAIGといった、本によっては消毒液か正露丸の匂い、とまで書かれているこの香りが、はまると何とも魅力的なものに感じてしまうのです。
実は、カナダ赴任が決まったとき、「Commonwealthの国なのだから、日本以上に豊富な種類のモルトが安く簡単に手に入るだろうな」と期待していました。しかし、LCBOという前時代的な制度のお陰か、日本と比べて全般的に高い!種類も少ない!家で飲む用のボトルは1本4,000円を予算の上限としていたので、初めて出掛けた近所のLCBOで直面した選択肢の少なさに意気消沈したことを覚えています。しかし、LCBOの中でもSummerhillかBayview Villageの店に行けば、高いなりにそれなりの種類を置いていることが分かりました。私が太るからという理由でカナダの美味しいビールを買うのを露骨に嫌がる妻も、ことシングルモルトに関しては「日本では珍しいものや、日本で買っても同じくらいの値段のものに挑戦してみたら」と珍しく理解のあることを言ってくれたので、1本概ね$50〜60の自主規制を作って、テイスティング本を片手に自分が好きな味のイメージに近いと評価されている新しいボトルに挑戦していくようになりました。そうやって見つけたハイランドモルトのGLEN GARIOCH(これで、グレンギリー、と読みます)やスペイサイドモルトのSTRATHISLAは、トロントでのお気に入りの1本です。
昨秋、当地にて長男が誕生しました。長男誕生を記念して(言い訳にして)、普段の予算額を超えて念願だったSPRINGBANK(昔バーで1ショット飲んだことがあるのみ)を購入したのですが、いざとなるとなかなか開けられないのが貧乏性の悪いところです。
誕生記念と言えば、とある席でその話となり、よく生まれた年のワインを買うという話がありますよね、という展開になった際、渡邉前商工会会長から、シングルモルトを買えばいいですよ、と教えていただいたことがあります。確かに、18年物のモルト、というのはよくありますから、息子が成長した暁に一緒に飲むには丁度いいですよね。18年物(あるいは25年物なんて垂涎ものもありますが)になってくると、何かの記念でもないとなかなか買えないし、封を開けるのにも、何も理由がないと罪悪感すら感じますしね。「そのアイディア頂戴します」と言って、さて何の18年物にするかな、と楽しく思いを巡らせているうちに、一つ大事なことに気付きました。18年物、と売られていますが、あれは決して18年前に仕込まれたものというわけではないわけですよね。ということは、2004年に仕込まれたシングルモルトを探すには一体どうしたらよいのか。渡邉前会長に大事なことを聞くのを忘れてしまいました。この答えが見つけられずに、現在困っています。どなたかご存知の方いらっしゃいましたら、どうかご教示下さい。
次回は、渡邉前会長の話題が出たから、というわけではありませんが、三井物産の堀明さんにお願いします。
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