
リレー随筆

私のレストラン巡り
カナダ三井物産 堀 明
バックナンバーを一通り読ませていただくと、皆さん多種・多彩な趣味等をお持ちで、また随筆家のような文章を書かれており、とても同じレベルの随筆は書けないと思うも後の祭り。今回、国際観光振興機構(JNTO)西中さんからの拝み倒しに屈し、引き受けざるを得なくなった。
多種・多彩な趣味・見識をお持ちの皆さんに比べると、こちらはこれと言ってとりえも無く、前号の西中さんのようなウィスキーに対する造詣も全く深くない。然程アルコールに強くないことも手伝い、熟成された深みのある赤ワインよりも、口当たりの良いフルーツリキュールに走ってしまう私であるが、食べることは大好きで、日本に居る時からTV・雑誌で見つけたり人から紹介してもらったりしては、分相応な美味しいお店、話題のお店を回っていた。
私のレストラン巡りに拍車をかけたのは、1998年から1年間ニューヨークに勤務した際に、現地スタッフが持っていた「ZAGAT SURVEY」との出遭いだった。"ニューヨーカー必携"とも言うべきこの本は、9cm×21.5cm程度のコンパクトな海老茶色で、職場のグルメな現地スタッフの机にも辞書の隣に並べてあった。
ご存知の方も多いと思うが、ニューヨーク在住のZAGAT夫妻が、著者の主観だけでなく、実際に店に足を運んだ一般人からのアンケートを基に、料理・内装・サービスの3項目につき、30点満点で評価したレストランガイドである。各レストランには読者のアンケート回答をそのまま引用したコメントが付されており、ちょっと当てにならない平均コストや、深夜・日曜営業、クレジットカード使用可否等も記載されている。有名店であっても、読者の厳しい舌と眼で、『ファーストフード並みの味』『デパート特設会場のような雰囲気』『教育されていない店員』とバッサリ切られているものもあり、ヨイショなしの本音が詰まっている。
今やグルメガイドの類は氾濫しており、この本に対しても賛否両論あることは無論承知している。しかし初めての海外勤務で現地食事情に不案内な上に、おびただしい数のレストランがある中から、"今日の一軒"を選択するに当たって、この本は私にとってバイブル的存在となり、客の接待に、仲間うちとの食事に、と大いに活躍した。ニューヨークは世界経済の中心であると同時に、世界中から一流のシェフが集まってくる食の中心でもある。勤務が一年間と決まっていた私は、このガイドに高得点と評価されている店を片っ端から行き尽くす勢いで回った。平日は難しいこともあり、アメリカン、フレンチ、イタリアンといった重い洋メシを、土日連続でフルコース、時にはランチとディナー1日2食と、採点者気分でレストランを巡ったものである。
当時料理が素晴らしかったと今でも私の記憶、いや舌に残っているものとしては、Chanterelle、Le Bernardin、Jean Georges、Aureole、Daniel、Bouleyと有名店が並ぶが、これらは今でも一流店としての看板を守っている。当時TV番組「料理の鉄人」で話題だったNobuもお気に入りの一店ではあった。
日本にもこの本があれば売れるのではないかと思いつつ、1999年帰国したある日、書店であの海老茶色の本が眼に飛び込んできた。題名には「ザガットサーベイ 東京のレストラン」とあった。その場で迷わず買ってからというもの、翌年からは自分も"ザガティア"と称されるアンケート回答者の一人となって、毎年、自らが訪れたレストランの棚卸と評価を行っている。
トロントを馬鹿にするな、と言われそうだが、昨年6月こちらに赴任することになった際、カナダに行ったこともない私は、トロントでは美味しい和食がいただけるのか、フレンチなど食すことが出来るだろうか、と真剣に不安だった。
そんな私は、当地に着くや早速本屋に足を運び、「ZAGAT SURVEY」のトロント版があるかを尋ねた。店員の最初の反応では、"バイブル"どころか、そんなものはないと言わんばかりだったが、サイズ、色、レストラン得点ランキングブックとの説明をすると、いかにも売れていない感じの棚から、1冊しかない在庫を取り出してきた。
ニューヨーク版・東京版に比べるとトロント版は厚さも半分、掲載店も600ほどと少ないが、トロントにもこの本があったと知ることで、美味しいものにありつけそうでひと安心した。そして、この料理に関する得点を参考にしながら、転勤してきた当初より、仕事で、プライベートで、掲載されているレストランを回って実際に自分の舌で味を確かめ、また次なる新たな店の開拓に努めている。
店の宣伝活動をしている訳ではないが、これまでで特に印象に残っているのは、Scaramouche、Truffles、Canoe等が挙げられる。Scaramoucheは一番のお気に入りであるが、洗練された味で毎年様々な賞に輝いており、Special Occasionとして使いたいお店。高台にあるため、窓側の席からは遠くにそびえるCNタワー、夕方には市街地が美しく見える。Trufflesは、Four Seasons Hotel内にある高級店だけあり、内装もサービスもさすがで、プリフィックスメニューは色々な味を楽しめ、一品毎のワインセレクションも嬉しい。また、ビジネスマンたちの接待用食堂と化しているCanoeは、料理の味も私は好きだが、ここはやはり54階から眺めるトロントの夜景が、もう一つのメインディッシュである。その他にも、Chiado、Celestin、Joso's、Annona等々、トロントにも結構なレストランがあるものだ。
半ばグルメ本の紹介か、レストランの宣伝のようになってしまった嫌いがあるが、穴場やお得なお店を探すのもよし、自分の味覚と他人の評価を比べるのもよし、Toronto Life等の雑誌評価との合せ技で行きたいお店を決めるのもよし。私は所謂「美食家」「グルメ」とは程遠いが、趣味と実益を兼ね、ここトロントでも自分だけの心の「ZAGAT SURVEY」に新たな一店を加えるべく、美味しいお店探しを続けている。
次回は、KPMGの関さんにバトンタッチします。
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