インタビュー・シリーズ この人に聞きたい


吉川光貴さん

カナダに指圧を広めながら、新テクニック推古道を開発


吉川先生と学校を手伝う娘のグゥェニスさん
左:吉川先生 右:学校を手伝う娘のグゥェニスさん

フリーランスライター 三藤あゆみ


Mitsuki Kikkawa(吉川光貴)
東京で浪越指圧を学び、指圧師として浪越徳次郎氏のもとで働きながら経験をつむ。1972年カナダへ移住、トロントにトロント指圧センター、Kikkawa Shiatsu Schoolなどを開く。1981年、マッサージセラピスト職業訓練認可校、ICT Kikkawa College(http://www.ictschools.com/)を、シャーリーD.デズボロー氏と共に創設。現在、ICTスクールはハリファックスにもカレッジを開校、また、カナダ各地に提携校を持つ。クリニックでは、吉川氏自らも、指圧や独自のテクニック"推古道"を使いトリートメントを行っている。


吉川先生は、最初から指圧をカナダに広めることが目的でトロントにいらっしゃったのですか?

吉川:カナダに指圧のクリニックや学校を作るのが目的で、1972年にトロントに派遣されてきました。最初、トロント市内にトロント・シアツ・センターというのを開いたのですが、それがこの街で初の指圧クリニック。その4年後、初めての300時間の指圧師トレーニングコースをスタートしたのが、本格的な学校のはじまりです。

長年に渡りカナダ人に指圧を教えてらっしゃるわけですが、学校のプログラムや生徒は日本と比べると、どうですか?

吉川:私が日本で指圧を勉強した時代は、3年間、朝早くから勉強が始まり、夜は治療の手伝いや実践というように、ほんとうにクタクタになるまで修行と仕事の日々が続き大変でしたが、最近ではカナダ、日本を問わず、あまり厳しくすると学生が皆やめてしまいますから、そういうやり方で指圧師を育てることはないですね。

カナダで認められる指圧学校の内容は日本のものとだいたい同じで、2200時間をこなし、アカデミックな勉強もします。カナダの良いところは、ある程度学び技術を習得した学生には、スチューデントクリニックというインターンのような機会が与えられ、在学中にお客さん相手に指圧を実践できること。日本でそういう制度はありませんが、これは良いシステムだと思います。

学生のための実習室
学生のための実習室
学生の質は・・・さまざまです。きちんと勉強して卒業し指圧セラピストとして働くというのはなかなか努力がいることなので、根気があり熱心な人はプロになれる。それでも、指圧師として最初から自分でビジネスを経営していくのは本当に大変です。生徒の中には他の学校に入れなかったからとか、じつは何の仕事をしても続かず指圧学校に来るといった人も中にはいて、そういうケースだと学校での勉強も続きません。

Kikkawa CollegeなどのICTスクールは、マッサージセラピストのトレーニングをする2200時間の認可されたプログラムがありますが、これは指圧とはまた別の資格ですか?

吉川:カナダでは、指圧師(CST)とマッサージセラピスト(RMT)は別の資格です。日本だと、今は按摩・マッサージ・指圧師という総合した資格になっています。カナダでもそういうシステムにしたいなと私は思っているのですが・・・。

マッサージと指圧の主な違いを教えてください?

吉川:マッサージ(スゥエーデンマッサージ)は、体をリラックスさせ血の循環を良くしたり、痛みや疲れがとれますが、指圧は身体のより深いところに効くので、体の機能を調整したり、痛みをとるのにさらに効果的です。また、指圧は内臓に関係する各経絡の深いところに刺激を与えるので神経系に作用し、不眠症などにも効きます。

先生の名刺にも書かれている"SUIKODO"というのは何ですか?カナダのウエブサイトなどでも時々目にしますが・・・。

吉川:昔ながらの様々な東洋医学の考え方や処置方法と、現代のストレス学や神経学、免疫学の理論をあわせて、私が独自に開発したテクニックです。体を心地よくリラックスさせて脳内物質エンドルフィンの分泌に影響を与え、人間に本来備わる治癒力を高めたり、取り戻すのを手伝う、という考え方を基にしています。神経経絡を刺激するなどして体の機能を調整するわけです。

なぜ"SUIKODO"と名づけたのでしょうか?

吉川:漢字で書くと「推古道」。昔、日本は、推古天皇の時代に中国から医学をたくさん学び、取り入れたので、そう命名しました。

先生ご自身もクリニックのほうで推古道のトリートメントをするのですか?

吉川:はい。患者さんは、あらゆる薬を試しても医者にかかってもなかなか病気がよくならないとか、痛みがずっと続くなどと訴える人がほとんどです。薬のとりすぎで、体が疲れきっていたり、長く患っているためにストレスもひどく自己治癒力が落ちている人が多いですね。西洋医学も大切だと思いますが、身体が自然の治癒力を失っているときは補完医療も必要。効果も見られます。

推古道は、腰痛に悩む人、背骨に問題のある人などにも効きますか?

推古道で治した側彎症
・Before
before

・After
after
吉川:様々なテクニックを総合したものなので、側弯症などを治す方法もあります。10分から15分で骨の位置を正すことができた例もある。推古道は関節を動かしたりもしますが、無理に骨をバキッとやるような痛いことはしません。

推古道は、まったく誰もやっていなかったテクニックなのでしょうか?

吉川:東洋医学は歴史も長いし、似たような治療や一部のテクニックを実践していた人、今もやっている人はいるはずです。推古道は、伝統的な治療法や、新しく研究されている神経伝達物質と体の治癒機能との関係などの理論を総合して生み出したものです。

指圧だけはなく、いろいろ研究や勉強を続けられて来た成果ですね。

吉川:推古道を生み出した直接のきっかけは・・・ある時、指圧を受けに来たカナダ人のお客さんに向かって「OK、5回のトリートメントで、すっかり治るようにするから。トーフみたいに柔らかくリラックスした身体にしてあげましょう」と、断言したことがあったんです。ところが、いくら一生懸命やっても、その人には指圧の効果がなかなかでない!やはり、症状や個々の問題によって、指圧のみではダメな場合もあるんだと、その後一生懸命になって、いろいろ勉強したんです。そしてその成果を実践しはじめたというわけです。

ところで、先生がカナダに来られた70年代、指圧に対してカナダ人はどんな反応を示しましたか?

吉川:私がトロントに来た当時は、指圧そのものが知られておらず、風俗マッサージとの区別がつかない人もいる、というような状況でした。指圧が補完医療として受入れられるまでには時間がかかりました。スペシャリストとしての資格も1981年まではなかったものですから。オンタリオでは1981年にCST(Certified Shiatsu Therapist)、つまりトレーニングされた指圧セラピストのライセンスができました。

現在は一般にも受入れられ、理解されるようになっているのでしょうか?

吉川:指圧が一般にどのぐらい普及しているか・・・それは70年代に比べると受入れられるようになりましたが、全体から見ると一般カナダ人も西洋医学の医師にしても、まだまだ指圧に対しては消極的な態度の人が多いです。それでも、今カナダには、指圧学校が28校あり、CSTの資格を有するセラピストは6000人を超えています。

かつてトロントの西の端で小規模にスタートした指圧センターを、カナダ人と協力し、マッサージプログラムも含む大きな学校に成長させた吉川氏。ご自身も東洋医学の勉強や患者の治療を続け、毎日休む暇もないが、いつもユーモアを忘れない気さくな先生である。治療室には、思わず笑ってしまうような、おもしろいおもちゃや置物がたくさん並ぶ。「患者さんをリラックスさせ楽しい気分にするのも仕事のうち」なのだそうだ。ストレスの多い現代社会に住むわたしたちには、頭痛薬や睡眠薬よりエンドルフィンの分泌が、もっと必要なのかもしれない。

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