私のとっておきの店


The Roof Lounge
Park Hyatt Torontoホテル



桜井俊郎 (カナダみずほコーポレート銀行)



ミッドタウンでの用事を済ませて、この後運転もしないから、寄り道して一杯飲んでいこうか、という気分になったらパークハイアットホテル最上階のザ・ルーフラウンジをお試し下さい。良いバーです。

ホテルフロント奥の細い廊下を進み18階でエレベーターを下りて左手のバーに入るまで、表示の目立たぬアプローチには、ホテルのバーには珍しく、隠れ家的な味わいがあります。

中に入ると、暗褐色の木を多く用いて落ち着いた雰囲気のフロアに、ゆったりとしたテーブル席が用意され、季節が良ければ、ウッドデッキを配したテラスも気分が良さそう。寒い日には、暖炉前のソファーが居心地良さげで誘われますが、私はいつもバーカウンターに着きます。8席ほどあるカウンターのダウンタウンを眺める側が空いていれば幸運です。 正面の都会の眺望が遠景として、近景には綺麗に並んだお酒の瓶、きびきびとシェーカーを振りオーダーを仕切るバーテンダーの動きを眺めるには、ここが一番だからです。

暮れなずむまでの移ろいに続くダウンタウンの夜景、或いは、休みの日の昼下がり、穏やかな日差しの中に浮かぶ摩天楼。ここからのダウンタウンの眺めが好ましい、と感じる理由は、距離と高さのバランスにあるようです。一定の距離を置いて眺めると、高層ビルにも風情がありますし、18階は高いけれども超高層という訳でもなく、何となく落ち着きが良い、と感じるのは私だけでしょうか。

東京では、パレスホテルの最上階のバーから、皇居の周りを流れる自動車のテールランプの列を眺めるのが好きでした。車好きなら、テールランプ゚の形でモデルが言い当てられそうな高さだったのを思い出し、調べてみたら10階でした。 トロントで、眺めの良いレストランとして有名なカヌーは54階、私には高すぎるようです。

商業デザイナーの友人から聞いたのですが、お酒の瓶とラベルのデザインは、メーカーがお金に糸目を付けずに粋を競った成果だそうです。 イメージ゙が大事な商品ですから、当たり前と言えば当たり前ですが、一度そう意識してバーのカウンターを眺めてみて下さい。フランス、イタリア、イギリス、アイルランド、アメリカ、そしてカナダ。ジン、ウイスキー、ブランデー、ベルムースに各種リキュール。そこはかとないお国柄と、夫々のお酒の特徴を表す瓶とラベルが渾然一体と並べられたバーカウンターの壁。 綺麗なだけでなく、眺めていて飽きません。特にここルーフラウンジ゙のは、数や種類、照明も品良くまとまっていて、一見の価値ありです。

良いバーとは、良いバーテンダーのいる店のこと。次はいよいよバーテンダーをご紹介します。

5時頃、看板バーテンダーのJoeがカウンターに入ります。 ベテランのJoeはデザートワインで有名なポルトガル領マデイラ島出身。 このホテルに40年も勤める働き者です。先程、「きびきびとシェーカーを振り、オーダーを仕切る」と形容したのは彼のこと。 

白髪で、タイとベストにしゃきっと身を固めた彼の働き振りを「優雅に」としなかった理由は、皆さんが足をお運びになってからのお楽しみに取っておきましょう。 

ここで、Joeへのインタビューといきたかったのですが、何とこの2週間ほど、40年目にして初めてインフルエンザで欠勤中。そういう人ほど一旦罹ると重いらしく、原稿の締め切り上、彼の復帰を待てませんでした。 替わりに、土曜の昼下がりにシェーカーを振っていた、アシスタントマネジャーのJessicaに話を聞いてみました。

私「Joe、早く良くなると良いですね。」

Jessica「全く。常連の皆さんも、私たちも皆心配してます。 今日は私もバーテンダーに駆り出されました。 でも、昔取った杵柄で腕に覚えはあるし、結構楽しんでます」

私「ホテルの経営上、このバーはプロフィットセンターなのですか?」

Jessica「ホテルにとって、バーは部門収益の如何に拘わらず、どうしても必要な存在です。 このバーの場合は、ちゃんと利益も出しています。 夜だけでなく、ランチにも人気があるんです。 雰囲気が好きだからと、20年通って下さる常連のお客様もあるんですよ」

私「お客さんに一言」

Jessica「便利な場所にあるので、イベントの前後にお寄り頂くと嬉しいですね。 より良い思い出をおつくり頂けるよう、スタッフ一同心を込めてサーブ゙します」

話をしながら、このバーのオリジナルカクテル「パークコスモ」を作って貰いました。スタンダードカクテル「コスモポリタン」はウォッカをベースに、グランマニエ、ライムジュース、クランベリージュースを加えて作りますが、「パークコスモ」はウォッカをオレンジウォッカに替えたもの。 ルビー色が綺麗で、シトラスの風味が爽やかなカクテルです。

色鮮やかなカクテルなど気恥ずかしくて、という向きは、無色透明な定番、ドライマティーニを。 因みに、黙っていてもナッツ類を出してくれますから、隣の人のをとらないこと。

さて、今日楽しんだのは、どれもお酒をお酒で割った強い飲み物。そろそろ神輿をあげて帰路につくのが賢明なようです。ではまた。

The Roof Lounge
4 Avenue Road の Park Hyatt 18 階
電話 416-925-1234 (ホテル代表)
毎日 12:00 p.m. 〜 2:00 p.m.
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筆者から一言

ニューヨークからトロント、合計8年半の北米勤務を終えて、間もなく帰国する予定につき、紙面を拝借して一言ご挨拶させて頂きます。 

トロントでは、商工会、補習校をはじめ、日本人社会が良い雰囲気で、和気藹藹なのがとても印象的でした。皆様、本当にお世話になりまして、有難うございました。 

住めば都とは正にトロントのこと。 アルゴンキン州立公園でのキャンプ、カヌートリップ、動物ウォッチング。冬のクロスカントリースキー、夏のゴルフ、足を伸ばしてナイアガラのワイナリー、モントリオール、モントレンブラン、ケベックシティー。 昨夏一足先に帰国した家内と2人の娘達が懐かしがることしきりです。 

皆様どうぞお元気でお過ごし下さい。 またお会いできる日を楽しみにしています。

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