
リレー随筆
ある日の記憶

大森 義友 (カナダ日本通運株式会社)
私の1日は、ガーディナーエクスプレスの渋滞状況をチェックすることから始まる。いつもと比較して、どこが違うのか、空いているのか、混んでいるのかの確認作業である。私は、ロジャースセンターのすぐ隣のコンドに住んで、毎日、ミシサガまで車で通勤している。この確認はとても重要。時間どおり会社に到着するためと言うよりは、渋滞に巻き込まれて、無駄に時間を費やし、疲労しないための基本動作である。
以前はミシサガに住んでいて通勤は楽だったが、時間が経つにつれ、ダウンタウンで人に会ったり、飲む機会も多くなった。そして、そんな楽しい時間のあとに、ミシサガまで戻るのがつらくなっていた。そんな時、大家の都合で、転居せざるを得ない状況となった。そして、野球も歩いて見に行けるという簡単(不純)な理由も加わり、このコンドに住むことになった。当初は、ダウンタウン移住に感激して、ことあるごとにホームパーティを企画した。いろいろな人が集まり、楽しい時間を過ごした。特に、オンタリオプレイスの花火大会の日には、定員(?)いっぱいの人が集まり大騒ぎだった。間もなく、それから2年が経過しようとしている。
ある朝ガーディナーエクスプレスをチェックすると、異常に交通量が少ない。この異変は?24チャンネルで状況を確認。「CNタワーから氷の固まりが落下」、「CNタワー付近の住民は外に出ないで。危険です。道路を閉鎖に掛かっている」と呼びかけている。なるほど。でも、見る限りはスパダイナの入口から西向きに乗れることを確認。問題なしと判断し、通常出発時間、通常ルートをとることに決定。この日は問題なく会社へ到着した。
問題は、その翌朝であった。スパダイナの乗り口も閉鎖されているのが見えた。レイクショアーも大渋滞している。すぐに迂回路を選定、ダンダス・ダファリンを経由して、ジェイムソンから乗れば大丈夫と考えた。キング、クイーンが候補だが、交通量が多い。ダンダスは心理的に北すぎるので、代替ルートとして誰も選択しない。案の定西向きは、快適であった。しかし、予測を裏切る事態が発生した。ジェイムソンが閉鎖されて進入不可となっていた。基本動作、確認作業がなっていないと反省。ここまでくるともはや選択肢なし。レイクショアーの大渋滞の中へ突入。悲惨な結果が待っていた。
西向きの代替ルートのダンダスは、ストリートカーの線路交換工事が始まり、別ルートの発見が必要だが、まだ決まっていない。時々、この工事現場を見ることがあるが、掘り起こした土の中から枕木(木製)が出てくるのだ。枕木の上からコンクリートを流し込んだ、過去の乱暴な工事を想像させる。
そして、フェンスで仕切られた両側の歩道を見る。沿線の商店は大変だろうと思う。そういえば、少し前に知合いがこの通りに店をオープンさせたが、大丈夫なのだろうか心配だ。
当地に来て最初の頃は、ゴルフ、ゴルフ、ゴルフ(スコアは別)とひたすらはりきっていたが、いつからか忘れたが、休日にはのんびりとすることにした。決して早起きせず、できるだけ外出しないように心がけていた。単なる、ものぐさ、引篭もりかもしれない。新しく当地に来た人に街のことを聞かれても答えられず、どうしてだろう、と考えていた。そして、最近、休日に街にでる機会が少しだけ増えて、「外に出ないからだった」ということが分かった。そして、色々な発見や体験を重ねている。4年間も滞在しているのに、いまごろ。
初めてハイパークへ行き、5年ぶりに花見をした。きらきらと光る水面、レンギョウの黄色い花、そして白い桜。ゆったりとした気分になった。大勢の日本人が桜を楽しんでいて、何か不思議な共感が沸いてきたのは私だけだろうか。そして、園内をさまよって歩いたら、小動物園があり楽しめた。特に孔雀は、サービス精神旺盛で、大きく綺麗な羽を広げて威嚇し続けてくれた。
初めてビーチーズへ行き散歩した。天気が良かったので、多くの人がボードウォークを歩いていた。外に出られるのを楽しむかのように、犬たちもはしゃいでいた。オンタリオ湖に数多くの白い帆を張ったヨットが浮かんでいる。犬の放し飼い運動用砂浜が確保されていた。鎖をとかれると、すぐ走りだしたり、戸惑って動かないなど、性格が現れて見ていると楽しい。ふと不思議に思ったのが、犬が用を足した後、後ろ足で砂や土をけるはずなのにそれをしない。代わりに飼い主がフンを拾う。何故だろう。私の記憶ちがいだったのか。
この日は比較的暖かい日だったが、犬の楽しそうな運動を見ていて、思い出した。「冬のとても寒い日に店の外に繋がれている犬」体感温度マイナス20度ぐらいだったと思うが、彼(彼女)は、飼い主を呼ぶ悲しい鳴き声をあげ、座っている。そして、前足を交互に空中へ上げていた。きっと、コンクリートがあまりに冷たいため、右足が冷たくなると左足に交代、左が冷たくなるとまた右と、交互に代えて上げているのだろうと勝手に考えた。そして、飼い主は店の中でコーヒーでも飲んでいるのだろうと。
初めてストリートカーに乗った時、紐を引張って合図することに驚き、地下にもぐり、地下鉄に乗り換えができることにアンバランスを感じた。
初めてブランチというものを体験した。休日に、朝早く起きて外出し、食事をとるのには抵抗感があったので、今まで実現しなかった。また、どこの店へ行けばよいのかも知らない。これも、偶然、知合いのレストランシェフの勧めで、ブランチに挑戦することになった。料理は最高だった。そして、多くの人が友人同士や親戚が待ち合わせて、ブランチを取る習慣があることがわかった。これも外に出て初めて分かることなのだろう。
街角で煙草を吸っているときに、偶然発見し、喜んで、自慢げに皆に言っていることがある。それは、キング・ジャービスの南西の角、歩道に一列に並んだ白熱灯の街灯と一緒に、今でもガス灯が4本あることだ。誰も気がつかないが、炎がガラスの中で揺れている。先日もエトビコのチョコレート屋からの帰り、ブロア通りでガス灯を5本発見した。キング通り以外にもあるのではと思っていたので、車を止めて確認した。何故、ガス灯を部分的に残すのだろう。歴史的建物の前で、かつ、ガス代が払えるからなのだろうか?私は今でも、何気なくガス灯を探している。
街へ出て行って色々な体験や発見をすることは、心の栄養かもしれない。いつでも、新鮮で幸せな気持ちになれるからだ。それにしても、それに気がつくのに時間が掛かりすぎた。今まで、何も見ていなかったことを反省している。
そして、これからも、この街でどんな新しい発見があるか楽しみにしている。
次回のリレー随筆は、カナダ日本通運株式会社の勅使河原 徹様にお願いしました。
|