
リレー随筆
GOトレイン トロントでの列車通勤事情
小野 祐介 (カナダ三井住友銀行)
日本にいた頃は、通勤は苦痛以外の何者でもありませんでした。これ以上無理というすし詰め状態の列車に、額に脂汗を浮かべたオヤジ(最近では自分もまさにその一人ですが)が駅員さんに押されて乗り込んで来たり、最近では、在らぬ疑いをかけられないように、両手でつり革につかまらなければならない等、まさに命懸けといっても過言ではないほどの有様で、「通勤地獄の改善が都市部浮動票獲得の切り札」と野党にいつか提言したいと思っていたほどです。
ところが、今年の夏からは、通勤の30分がトロントダウンタウンへの小旅行に変わりました。きっかけは、大家の都合により余儀なくされた引越しにより、通勤手段を地下鉄から総二階建ての列車ゴートレインに変えたこと。これが、混雑知らずで、列車とは思えないほど静かで快適、緑豊かな外の景色も素晴らしく、これまでの通勤イメージを完全に覆すものでした。あまりの違いに、本当に外国にいるのだなと改めて実感したほどです。そこで、私が毎日使っているゴートレインについて調べてみましたので、皆さんにご紹介したいと思います。
ゴートレインは、オンタリオ州政府の下にゴートランジットという会社が運営しており、トロント市および周辺地域に全部で7路線、営業キロは361キロ。同じく政府系鉄道会社の流れを汲むジェイアール東日本には、規模でははるかに及びませんが(同社のそれは70路線、7526営業キロ)路線数では東京西南部にて営業している東急電鉄(8路線)ぐらいの規模です。車両は白地に緑色、ディーゼル機関車により最大10両の二階建て客車を牽引し、最大速度は時速130キロです。日本の大都市を走る電車とは違い、電気を通すための架線やパンタグラフ等が無いために、線路の周りや客車の上部がすっきりしています。また、線路の幅については、新幹線にも使用されている標準軌(1435ミリ)が採用されており、日本の在来線に使われている狭軌よりも368ミリ分だけ幅広です。ゴートレインはあんなにゆっくり走っているのに新幹線と同じ線路幅という点にちょっと驚かされます。
狭軌はかつての大英帝国が植民地開発用に使った規格だと鉄道会社に努める友人が言っていましたが、鉄道が輸入された時分では日本は未だ極東の小国であり、標準軌を利用する資格がなかったのかもしれません。
さて、利用してみて最初に驚かされる点は、改札がないことです。駅に隣接している小屋で切符を購入した後、直接ホームにたどり着くことが出来、何か物足りなく、ちょっと不安な気分になります。
日本の都市部では、最近は乗車券がICカード化してホームへの入場が随分とスムーズになりましたが、そもそも、改札自体が無い為、ストレス無しに、本当にぶらっとホームにたどり着けます。それじゃ、無賃乗車への対応は?という疑問が湧きますが、心配には及びません。ラフな格好をした車掌が、たまに車内検札に巡回に来ます。莫大な費用と最新技術を使って、一人ひとりの運賃支払い状況を確認する日本式、極めてローコスト・ローテクで抜き打ち検査を実施するゴートレイン方式とどちらが良いかは一概には言えませんが、物事の仕組みを構築する上での考え方の違いを改めて実感します。
また、切符にも回数券と定期券が何種類か用意されていますが、最も利用されていると思われる定期券は基本的に月単位で購入します。但し、月の途中から1ヶ月間というのはなく、月初から月末までの月単位となります。サービスに慣れ親しんだ日本人には最初は不便と感じるかもしれません。しかし、慣れてしまうとなんということは無く、システム構築の費用・手間を極力省力化していると好意的に受止める事も出来ます。
おや、こんなことを考えている間に既に終点のユニオン駅に到着する時刻となりました。もうそろそろ駅のホームが見えるはずと外を見ると、ダウンタウンの高層ビルは未だかなり先。と、突然、「本日は設備整備のため遅行運転しております」と説明になっているのか微妙な車内放送。しかし、乗客も特に気にする様子もありません。やはり、時刻表通りに列車を運行する能力は日本の鉄道に分があるようです。この辺におおらかになれるかどうかが、カナダでの生活を楽しめるかどうかの分かれ目でしょうか。
とにかく、皆さんもトロントにいる間に、快適通勤を試してみては如何ですか。
次号のリレー随筆は、全日本空輸、北原 宏さんにお願いしました。
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